ベトナム北部を旅する 春と秋の恒例の旅行だが、最近はあまり行きたいと思う所がなくなってきた。 いつも野鳥や昆虫などとの出会いを期待するが、それが中々実現しない。パプアニューギニアやスリランカの旅はさすがに手応えがあったが、出かけるのにはやはり気合いが必要だ。もっと簡単に行けてぼくが望むような自然のある場所はないものだろうか。 というわけでベトナムに出かけたが、簡単に行けるだけあってやはり野鳥も昆虫もさっぱりだった。さはさりながら、ちょっとおもしろい異国の旅ではあった。 ●ベトナム最北部サパの町で ベトナムには54の民族があると言われているが、その9割はキン族(ベト族)で、だからベトナムという国名らしい。ベト族はどちらかというと平野の民族だから、残りの少数民族のほとんどが山地に住んでいて、これはタイやラオスなどこのあたりの国と同様だ。今回は、もしかしたら、残された山野に鳥や虫がぼくを待っているのではないか、と期待しての旅だった。ところが待っていたのは山岳民族の皆さんばかりで、ご挨拶をすると結局あれこれの手芸品を売りつけられるのである。 ●思いがけず急峻な地形であった 奥地に山岳民族の皆さんがいることは事前に分かっていたが、あわよくぼそのまた奥へと分け入って、珍しい生き物などを探ってみようと思っていた。しかし現実はかなり厳しくて、まずは山がとても急峻なのである。予定どおりレンタルのバイクを確保したが、そもそも奥にある村に到達するだけでも困難なのである。山の斜面にはびっしりと棚田が作られていて、そこにあるのは直線的に登る歩道ばかりだ。タイの北部では山岳民族の村を抜けてその奥へバイクで入ったが、ここではとても無理だった。 ●サパの町の混沌はおもしろかった 「なんとか間に合った」というのがサパの町の印象である。なにに間に合ったのかというと、少数民族の伝統が壊れる寸前、というあたり。どこでもそうだろうけど、近代化の波はすごいから、山に住む少数民族の人たちだって、暮らしはどんどん近代化しているはずだ。冒頭の赤ずきんのおばさんも、値段を尋ねたら懐からスマートフォンを取り出して数字を示したのである。赤ずきんおばさんがいたのは観光客相手の「愛情市場」だが、この写真は地元の人が集まる「サパ市場」だ。しばらく観察したところ、この女性たちは自分たちが使う衣類の売買あるいは物々交換をしているようだった。黒モン族、花モン族、赤ザオ族、タイ族など、それぞれの服装があって嬉しい。足元のゲーターがゴム長靴に変わりつつある様子だった。 ●久しぶりにバイクツーリングの毎日 ホテルフロントのメガネお姉さんが感じが良くて英語も上手だったので、彼女にレンタルバイクの手配をお願いした。やってきたバイクはホンダ製だったが結構古い。山の中で故障したらどうするんだろうと思ったら、私に電話して、とのことでまずはOK 。ホンダだから大丈夫でしょう。しかし問題はバイクよりもそれを操縦するこちらにある。ノークラッチの原付バイクはあまり乗ったことがなくて、操作に慣れるのに時間がかかる。おまけにベトナムの交通事情である。道路はバイクと自動車のカオス状態であって、秩序よりも腕前が優先するのである。それでも5日間このバイクと運命を共にし、転倒一回で無事帰還したのでありました。 ●少女たちに幸運がありますように サパの町から奥に向かう道路をたどっていると、突然の濃霧に閉ざされて、その向こうからウグイスの鳴き声がする。それがベトナム的に独特で、「ホー・ホケチョイ!」というような具合だ。バイクを降りて声を聞いていると、下の方から少女が3人歩いてきた。ポッケに用意したヴェルタース(アメ)を差し出して写真を撮らせてもらう。あまり品のいい行動ではないが、いきなりカメラを向けるのもためらわれる。彼女たちがどの民族になるのかは分からないが、その服装が過渡的なことが見える。左の子のようにやがてみんな上下ジャージになってしまうのだろうか。 ●少女たちの村 峠を下ると谷間に入り、そこに村がある。バイクなどでづかづかと村に入っていくのは失礼なことだろうから、人がいたらともかく恐縮して挨拶をするように努める。つもりなのだが、なぜか奥地には誰も人がいないのである。なのでどんどん進むが、村の様子もまた少女たちの服装のように過渡期に見える。伝統的な棚田のすぐ下に重機で動かしたと思われる土砂が堆積していて、どうやら新しい水路を作っているらしい。手や水牛でやっていた農作業が耕耘機やトラクターに劇的に変わるのは、ぼくが住む村の50年前とまったく同じ歴史に思える。 ハノイの街角で
<左上>卒業式か何かがあって白アオザイの美女たちが街角に沢山。すかさずパパラッチ。 <右上>木陰の歩道で売っていたのは桑の実だった。英語で言うとマルベリー。 <左下>歩道に置かれたお風呂のイスで食べるのは「ホー」。米粉のソバで150円。 <右下>アジア各地の都市同様ハノイもバイク王国。大迫力の街角なのである。 コメントの受け付けは終了しました。
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4月 2024
ご案内「藤門弘の北海道フォト日記」は夢枕獏さんのホームページ『蓬莱宮』にも転載されていますので、そちらもごらんください。 |