石垣島箱庭果樹園速報! 1/12 吹雪の北海道を出発して石垣島へ。30℃近い気温差があった。去年の11月には、苗を植えようと長靴や作業着を用意して張り切って出かけたのに連日の雨。たまに雨が上がっても畑はぐちゃぐちゃだから植え穴を掘るどころか、草取りさえおぼつかない。会う人会う人みんな気の毒がってくれた。「そういえば6月の時もすごい台風だったね」それでも雨の合間を縫って、畑に入り、ヒモを張って道路の位置や植栽の区画を決めた。1週間でそこまでがせいぜい。気温が低いから蝶もいないし、散々な目にあった。正子オバアが気を遣って知り合いの川平ファームや石垣ラー油の辺銀さんのところに連れていってくれた。 さて今度こそ苗木を植えないと、せっかくトラクターを頼んで土を起こして、堆肥をいれたのにまた雑草だらけの畑に戻ってしまう。北海道に比べると雑草はすごいスピードで繁茂する。いくら何でもまた雨続きということはないだろう。石垣空港には後見人の田代さんがお迎えに来てくれた。「このところずっと晴れていたけど・・・・」 1月に新装開店した彼女の娘さんのお店で夕食をご馳走になる。漁師の弟さんが午前中に釣り上げたというマグロ、香り高いワイルドルッコラやパクチーのサラダ、まだ温かいゆし豆腐と好物がズラリ、石垣に戻ってきたなと実感させてくれるすてきな夕食だった。 1/13 晴れ、曇り時々雨 翌日、窓から朝日が差し込んでいる。こんなことは久しぶり、幸先がいい。今日は仲田の正子おばあの家に苗屋の神田さんとアドバイザーの友子さんが集まってミーティング。苗の植え付け計画やスケジュール調整をした後、植えつけに必要な道具や資材の買い出しに出かけることになっている。 少し早めにホテルを出て、石垣島最大にして唯一のホームセンターであるメイクマンに寄って道具類の下見をすることにした。ホテルを出発したとたん、雲行きが怪しくなった。メイクマンに到着するころにはポツリポツリと降り出した。なんという巡り合わせ、朝焼けの空はあんなにきれいだったのに。 昼食を食べながら4 人でおしゃべり、やっぱり雨降り出したネ、私が来ると雨、嵐、低温、台風というのが彼らの間でも話題になっているらしい。 大まかな作業手順を決めたあと、正子おばあと一緒に資材調達と下調べを兼ねて町に出かけた。 まずは近くの石垣島農協へ。係のおじさんの話を聞いて堆肥を大量に購入した。明日、おばあの家に配達してもらうことにする。神田さんに紹介してもらった資材屋さんにも寄った。防風ネットを張るのに必要な鉄パイプや金具の話を聞いた。 赤井川村の農協や余市のホームセンターと同じ感覚で、JA石垣島のおじさんたちと相談しながら資材や肥料を購入しているのが何とも不思議な気がする。2000キロメートル以上離れた日本の端と端なのに。 1/14 曇り、時々雨 午前中はメイクマンでスコップ、クワ、草刈り鎌、バケツ、一輪車などを購入してレンタカーに無理やり積み込む。雑草よけの防草シートやピンは車に乗らなかったので、明日、配達してもらうことにした。 思えば、北海道では園芸用の道具はいつも菜園のシェッドあるもの、自分で買った記憶はほとんどない。一輪車のタイヤがパンクすれば、いつの間にか修理されている。移植用のスコップをなくしても翌週にはちゃんと補充されている。それが当たり前のように思っていた。 でもここでは全部自分で揃えなくてはいけない。スコップやクワはもちろんのこと、肥料を撒くのに使うバケツやヒシャク、その他メジャーやカッター、植物識別用のプレート、水に濡れても文字が消えないペンに至るまで必要な道具をひとつずつ自分で選ばなくてはいけない。何だかすごく新鮮な体験だった。 午後、神田さんが苗を運んで来てくれた。大小さまざま、立派な苗もあれば、大丈夫かしらと心配になるような苗もある。風が直接当たらないように苗をオオギバショウに囲まれた窪地に置いた。 植え穴の位置を決めて支柱用の女竹を刺す。 買ったばかりのスコップを使って穴を掘ってみたが、ひとりの作業は遅々として進まない。明日から助っ人が来ることになっているが、こんなことで苗木は植え終わるのだろうか?この更地が畑らしくなるのだろうか?不安になる。また雨が降ってきたので穴掘りは中止。農協で昨日購入した堆肥が到着した。 夕食は正子おばあがゴーヤーチャンプルーをご馳走してくれた。本場のゴーヤーチャンプルー。こっちは美味しい方、こっちはイマイチとゴーヤーの選び方を説明してくれるけど初心者の私には、違いがほとんど分からない。正子オバアの娘の友子さんは近所でゴーヤー農家をやっている。石垣島では質量ともに一番のゴーヤー農家、ということは日本一のゴーヤー農家かもしれない。 島豆腐とたっぷりのベーコン、巨大なゴーヤー(ワタだけでなく皮の内側にある固い繊維も取り除かなくてはいけないらしい)を3本も使ったゴーヤーチャンプルーは大皿に溢れんばかりに盛られている。 私が町で調達したゆし豆腐、おばあがプランターで育てているパクチーをたっぷりのせたトマトのサラダと味噌汁。大満足の夕食、摘み立てのパクチーはすごく香りがよい。パクチー入りの味噌汁というのは初めてだったけどなかなか美味しかった。夏になったら北海道でも真似してみよう。ベーコンの塩味がほどよいゴーヤーチャンプルーはもちろん美味しかった。チャンプルーの山は丘となりやがて平地となってみんなの胃に納まってしまった。 1/15 曇り時々雨 今日は朝から助っ人がくるはず。いろんな人を経由しておっばの家に数日間、居候することになったフランス人女性らしい。正子おばあも友子さんも寝食を提供する代わりに農作業を手伝ってくれる人材を募集する世界規模のネットワークを利用しているので、彼女たちの家にはいつも居候たちがいる。真剣に農業を学びたいという人から旅行のついでにフラリと寄ったという人まで、居候の動機も年齢も国籍もさまざま。 助っ人が来る前に準備をしておこうと思い、早起きして畑に行った。また雨がパラパラ降り出した。気温も低いからカッパが手放せない。 昨日、女竹を刺した場所に穴を掘る。助っ人は9時に来ることになっているのに待てど暮らせど姿を現さない。だいたいオバアが9時に迎えにいく約束のはずが、10時を過ぎてもオバアは家の用事をしている。島時間?ひとり黙々と穴を掘る。 細かい雨が降り続いている。でも幸いなことに土は思ったほどぐちゃぐちゃにはなっていない。石もほとんどないのでスコップは割合楽に土に入っていく。少し安心する。 昼近くになってようやく正子おばあとフランス女性が畑に姿を現した。助っ人のマリー・クレールは、西洋人にしては小柄で控えめな女性だった。50歳だという。 田代さんと昼食の約束をしていたので午後から一緒に作業をすることにして町に出る。 2時からマリー・クレールと一緒に作業開始。私が植え穴を掘り、マリーには私が午前中に掘った植え穴を広げてもらう。穴を掘り終えたので一緒に植え穴に堆肥を投入する。午後の休憩、正子おっばが畑にお茶とお菓子を運んでくれた。手頃な石に3人で腰を下ろしておしゃべり。マリーはまあまあ日本語が分かるし、英語はかなり上手、フランス語は母国語だからもちろん自由自在。日本語と英語で話はほとんど通じる。日本は初めて、日本語はアニメや映画で学んだそうだ。 彼女は数日後には石垣島から四国に渡ってお遍路を体験した後、3月に南インドでアーユルベーダの専門的な施設で1ヶ月間、治療を受ける予定だという。「どこか悪いの?」「別に病気ではないけどワインを飲まないとすごく調子いいみたいだから」と笑った。彼女はベジタリアンで肉や魚はもちろん、卵やミルクも口にしない本格的なビーガンだという。 なかなかやるな。ディープな石垣島の農家にもすんなり溶け込んでいる。暗くなるまでマリーとふたりで堆肥入れたり、雑草取りをした。 1/16 曇り時々雨風が強い 今日は午後から神田さんの指導で南国フルーツの苗を植えることになっている。午前中は、マリーは作業場で正子おばあのお手伝い。私は去年植えたパイナップルの苗を手入れしたり、昨日掘った植え穴にオオギバショウの苗を植えた。 ベジタリアンのマリーは自分で昼食を作るというので、私は町に出てメイクマンでカッターやハサミなどを購入、メイクマンには少なくとも1日に2回は通っているので店員さんたちとはすっかり顔なじみなった。 午後、神田さんが畑に来てくれたので一緒に苗を植える。ほとんどの苗は名札がないから私にはどれがどれだか区別がつかない。神田さんの指導の下、3人で手分けして苗を植えた。1時間で終了。根の周りをていねいに踏んで苗を落ち着かせた。 経験上、植えつけより雑草対策用の防草シート張りの方がずっとが厄介な作業になるだろうと予想していた。 シートを張ってから苗を植えるか、植えてからシートを張るか散々悩んで、正子おばあにも相談したのだが、シートが到着するのを待ちきれずに植え穴を掘ってしまったので、苗を植えてからシートを張ることにしたのである。 ということはシートを苗に合わせて切り貼りしなくてはいけないのである。苗は列状にまっすぐに植えたつもりだけど、多品種少量なので並木のようなワケにはいかない。寸法にカットしたシートの端を二人で抑えて3人目が苗の位置に合わせてカッターで切り込みを入れていく。運が悪いことに今日は風が強い。ちょっとでもシートから手を離すとシートはめくれ上がってしまう。シートが風に飛ばされないよう押さえピンを手早く挿してシートを固定する。手がもう1、2本欲しい。 強風、時々雨の中、暗くなるまで作業を続けたけど、結局、半分くらいしかカバーできなかった。残りはまた明日。 マリー=クレールはパリで映画の小道具を作る仕事をしているらしい。どうりでカッターの使い方が上手なワケだと納得。映画関係者と聞いてシートを張りながら映画の話をする。 彼女はパリジェンヌだからもちろん北野たけし監督の大ファン。作品は全部見ているという。中でもドールが一番お気に入りだそうだ。「ソナチネは石垣島で撮影したから、北野ブルーのブルーは石垣の海の色。」といい加減なことを話すと彼女は大げさに感動していた。「パリに帰ったら仲間に自慢しないと!」 「日本では「君の名は」っていうアニメがヒットしてるんだ」と神田さんがマリーに話しかける。「マリー=クレール」とマリーは答える。ウン?「マリー=クレール」ハハハ、マリーは神田さんに「君の名は?」と聞かれたのかと勘違いしたのだ。3人で大笑い。 予定通りには作業は進まなかったけど一応のメドがついたのでひと安心。今晩はゆっくり眠ろう。 1/17 曇り時々晴れ 久々に雨が降らない一日だった。 朝、押さえピンの不足分200個を農協で調達してから畑に急ぐ。早速、マリーと一緒にシート張りに取りかかる。まだ一番厄介な箇所が残っているのでこれを済ませないと。 作業をしながらあれこれ映画の話をする。「最近、ダルデンヌ兄弟は撮ってないの?」「へェー、日本でもダルデンヌ兄弟の映画が公開されるんだ」というような話が石垣島の箱庭果樹園でできるとは思わなかった。 一番の難所にとりかかる。去年、神田さんが畑のほぼ中央にパッションフルーツ用のアーチ型のパイプ支柱を立ててくれた。ビニールを張っていないビニールハウスのようなものだ。パッションフルーツはこの囲いの中に植えてある。 南国果実の中で私が一番ひいきにしているのがパッションなので、厚遇してやったのである。パイプとパッションの苗が複雑に重なっているので、それに合わせてシートをカットするのはほとんど至難の技。気を抜けない作業が続く。しかし幸いなことに今日は風がない。それに二人とも作業に慣れてきたので、マリーにあれこれ指示しなくても作業は進んでいく。 昼近くになってようやく難所を無事通過、残りのシート張りは楽勝だろう。 久々に太陽が顔をのぞかせた。 マリーは午後はお休みにして正子おばあとユラティク市場に行くことにする。ユラティクは石垣島の野菜と果物の集散地、ベジタリアンのマリーには魅力的な市場に違いない。 私はオモト林道を抜けて親水公園に車を走らせる。気温は低いし、晴れたとはいえ冬の光だから期待はしていないが、せっかく石垣に来たのだから一度くらいは蝶を見にいかなくては。まちがえてコノハでも飛んでいてくれると嬉しいのだけど。 予想通り、姿を見せたのはリュウキュウアサギマダラ、カバマダラ、ジャコウアゲハ、キチョウくらいだった。 しばらく川原の指定席に腰を下ろして目の前を飛んで行く蝶を眺める。蝶は不作でもここに来るとわが家に戻ったような安堵感を覚える。私にとっては最高に幸せな時間なのである。 まだシート張りが残っているのでそうそうボンヤリしているわけには行かない。町に出ておなじみメイクマンに寄って50メートル巻きホースとジョイントを購入する。 畑に戻る途中、比嘉豆腐店に寄ってみる。お昼過ぎなのに珍しく店は開いていた。比嘉豆腐店は観光雑誌に紹介されて以来すっかり有名になったせいで、最近では11時前に行っても品切れで閉店していることが多かった。ラッキー!ゆし豆腐と卵焼き、おからの煮物と味噌汁のお年寄り定食350円を食べた。やっぱり温かいゆし豆腐は美味しい。 畑に戻ってひとりでシート張りを続行。パッションフルーツの隣はライチ2株、次ぎの列はパパイヤ3株、その次ぎは島バナナ2株が植わっている。パイプアーチの難所を通り抜けた後だし、風も邪魔しないのでひとりでも楽に張れる。2時間ほどで作業は終わった。 町から帰ってきたマリーに手伝ってもらって、最後に残った通路部分にもシートを張った。これで畑全体が防草シートで覆われた。マリーとバンザイ三唱。 畑からだいぶ離れたところにある水道にホースをつないで、栓を捻ると思いのほかスンナリと水が吹きだした。様子を見に来てくれた正子おばあがホースを引っ張って1本1本の苗にていねいに水をやる。助手を勤めるマリーはホースを持ち上げたり、ホースに噛みついたりして「これがフランス式の水やり!」とおどけてみせる。これで予定した作業はすべて終わった。 長年の夢だった「石垣島箱庭果樹園」がいよいよスタートした。正子おばあ、神田さん、マリ=クレールどうもありがとう。 さあこれから台風や雑草との闘いが始まる。 <今回植えた植物>
●島バナナ2株 ●三尺バナナ1株 ●パパイヤ4株 ●ライチ2株●パッションフルーツ6株 ●ピタンガ2株 ●シャカトウ2株 ●アボカド2株 ●グアバ4株 ●シークワーサー2株 ●コーヒー2株 ●アセロラ2株 ●ジャボチカバ1株 ●ブラックベリージャムフルーツ2株 ●インド藍5株 ●オオギバショウ9株 <次回植える予定の植物> ●ハイビスカス15 株 ●ローズマリーたくさん ●ドラゴンフルーツ赤肉 ●夜来香 ●ジャスミン ●ランタナ ●ビバーツ コメントの受け付けは終了しました。
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2月 2024
ご案内「藤門弘の北海道フォト日記」は夢枕獏さんのホームページ『蓬莱宮』にも転載されていますので、そちらもごらんください。 |